神谷レディースクリニック
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不妊に悩む方々に伝えたい新しい医療情報

国際医療技術研究所IMT College
荒木重雄


不妊治療において、第一に必要なことは不妊カップルに不妊治療に関わる適切な情報を提供し、十分 な理解を得ることです。個人の自律性が尊重される欧米では、インフォームドコンセントという考え方が早くから取り入れられ、不妊治療を受けるカップルが理解できる形で情報が公的な機関から提供されています。
わが国では不妊カップルの支援体制が確立されておらず、社会の理解もあまり得られていないのが現状です。そこで、今回は、難治性の不妊に悩むカップルの皆さまへ伝えたい情報を、Q&Aの形で最新のデータに沿って平易に述べてみたいと思います。
以下、この抄録では公開講座でお話しする内容の一部を紹介させていただきます。

不妊カップルとのQ & A

 現在、通院しているクリニックの先生から、排卵誘発剤も使用し、人工授精も半年も続けても妊娠できないので、体外受精を進められたのですが、成功率も低いと聞き迷っています。私たちは体外受精の本当の成績や治療のリスクを聞いてから、どのようにするか決めたいと思っています。日本では、体外受精を受けている方は多いのですか。
A 確かに、毎年、体外受精を受ける方は増えています。体外受精とそれに関連した方法を含めART
とよびます。一昨年実施され昨年出産した方々のデータを含めた報告が、最近日本産科婦人科学会から発表されました。そのデータでは67,697 名の方がART を受けています。10 年前の統計では18,039名となっていますから、3.8 倍になっており、その数は確実に増えてきています。

Q 日本で体外受精を受けることができるクリニックは沢山あるのですか。
A 一昨年末までに、584 施設がART を行う施設として学会に登録されています。実際に、ART を行った施設は520 施設と報告されていますから、平均すると各県で10 施設ほどで実施されています。ARTを実施し出産に到った実績のある施設は約80%です。

Q どの施設でもART に成功しているわけではないのですか。どこのクリニックに行けばよいのでしょうか。
A おそらく施設間で成功率には格差はあると思いますが、施設別の成績は報告されていませんから、実際のところはよく判りません。その点、各施設の成績が一般に公表されているアメリカやイギリスなどとは大きな違いがあります。その様な状況では、不妊カップルがどのクリニックを選択するか迷われるのは当然のことと思います。

Q ART の実施経験も施設で違うのでしょうか。
A そうですね。ART は卵を採取し精子と一緒の容器に入れ受精させ、得られた新鮮な受精卵を子宮に移植する新鮮胚移植が行われますが、通常、これを単にIVF と呼びます。IVF を行った施設は518施設を報告されていますが、年間に50 周期以下の施設が313施設で、100 周期以内の施設が413 施設となっています。即ち、80%は100 周期以内の施設となります。

Q ART の治療回数が少ない施設は成功率が低いのでしょうか。
A 日本のデータは公表されていませんからよく判りません。アメリカのデータでみますと、年間の治療周期数が少なくても良い成績をあげています。アメリカでは施設の外部監査が行われていますから、施設の格差が小さいのかもしれません。

Q 体外受精にはいろいろな種類があると聞きましたが、どのようなものがありますか。
A 先ほど述べました新鮮胚(受精卵)を用いたIVF が基本的な治療法です。また、精液の状態が悪い例には顕微授精も良く行われます。これはICSI(イクシー) とも呼ばれますが、一個の精子を卵子の中に注入し受精卵を得る方法です。胚移植はIVF と同じように行います。IVF やICSI では2 〜3 個の胚を移植するのが一般的で、移植に使われない余剰胚がでることがあります。この余剰胚は凍結保存することができますが、これを融解し胚移植する方法を凍結融解胚移植と呼びます。わが国で誕生したART の児の大部分は、IVF、ICSI、凍結融解胚移植で妊娠したものです。

Q 実際にどのような方法が一番行われているのですか。
A 最新のデータでは、IVF は38,162 周期、ICSI は38,711 周期とICSI が上まわるまでになりました。
凍結融解胚移植は24,394 周期に行われています。GIFT やZIFTと呼ばれるものもあるのですが、僅か203 周期に行われたのみでした。これらを合計しますと101,630 周期と一万周期をこえるまでになりました。

Q 毎年同じような割合で行われているのですか。
A 5年前(1998 年)のデータでは、IVFは34,450 周期に行われていますから、この数年は横ばいという感じです。同年のICSI は18499 周期に行われていますから、ちょうど2 倍になっています。凍結融解胚移植は8,132 周期に行われていましたから、5 年間の間に3 倍となりました。この数字をみますと、凍結融解胚移植の重要さが専門医の間でも、不妊カップルの間にも理解されてきたものと思われます。

Q なぜ、ICSI が増えているのですか。
A ICSI は通常のIVF では受精卵が得られない重度の男性不妊に主に行われます。この方法を用いると一個の精子で一個の卵子を受精させることができ、受精卵の得る確率は70% 前後期待できます。IVFで満足できる受精率が得られなかった例にも行われます。無精子症の例でも精巣から精子を採取しICSI ができるようになりました。ICSI の技術が向上し、最新のデータでは採卵当たりの妊娠率は20.5%とIVF の23.0%にほぼ肩をならべるまでになりました。このような好成績がICSI が急増した理由と思われます。

Q 凍結融解胚移植も増えているますね。
A 新鮮胚を用いたIVFやICSI では2 〜3 個の胚しか移植しませんから、一般に2 ?4 個ほどの胚が余剰胚となります。これを凍結保存し、後に凍結融解胚移植という方法で妊娠が期待できます。最新のデータでは凍結融解胚移植の移植当たりの妊娠率はIVF やICSI の妊娠率を凌ぐまでになりました。高次多胎妊娠を避け、1 回の採卵当たりの累積妊娠率を上げるためには、凍結融解胚移植は極めて有効です。幸い凍結融解胚移植を実施する施設が増えてきており、大変良いことだと思います。

Q 体外受精などの治療を繰り返して受ける人も多いのですか。
A 最近のデータでは、IVFは1 年間に一人当たり1.5 回受けている計算になります。また、顕微授精も一人当たり1.5 回受けている計算になります。凍結胚移植も一人当たり1.5 回行われています。即ち、IVF やICSI を一年間に1.5 回受け、それに凍結融解胚移植を平均すると1 回弱受けているのではないかと推定されます。

Q 一体、ART でどれくらいのお子さんが誕生しているのでしょうか。
A 最近の1年間でIVF では6,581 人、顕微授精では5,994 人とほぼ同じくらいの児が誕生しています。凍結融解胚移植でも4,793 人生まれています。その他の方法でも僅かの出産例がありますので、総数にしますと17,384 人誕生しています。10 年前には僅かに3,554 名と報告されていますから出生児数は5 倍にもなっています。最近の日本全体の出生数は110 万人ほどですから、約1.5%がART で誕生しています。

Q そのように出生児数が増えたのは何故でしょうか。
A IVF による出産児数はここ数年間は横ばいの状態です。ICSI による出生児数が徐々に増えてきています。しかし、最も顕著な増加をみたのは凍結融解胚移植による出産児の数です。出生時数の増加にはICSI と凍結融解胚移植の実施頻度が増えたことが大きな要因です。

Q 凍結融解胚移植というのはART にとって大事なことなのですね。
A 凍結胚移植は余剰胚を凍結保存し妊娠出産をはかる目的で行われます。最初の新鮮胚移植で高次多胎妊娠(3 胎以上の多胎妊娠)を避けるために多くても2 〜3 個の胚を移植します。できれば1 個の胚で妊娠を成立させたいのですが、条件のよいカップルでなければ、なかなか難しいと考えられています。それでも2 〜3 個の余剰胚を凍結保存できるカップルは多く認められます。この凍結余剰胚を用いて妊娠すれば採卵当たりの累積妊娠率は高まり、高次多胎妊娠の発生を低下させることもできるというメリットがあります。今日のART クリニックでは凍結融解胚移植は欠くことのできない必須の条件になっています。幸い日本でもその意義が認められ凍結融解胚移植を行う施設が増えてきています。ちなみに凍結融解胚移植で誕生した児の数は最新の数値では47,093 人と報告されています。10 年前には僅かに71 人だったことを考えるとこの進歩は大きいと思います。

Q ARTにおいて最もつらい処置は何でしょうか。
A ART は卵の採取ができて初めて実施することができます。そのためには卵巣を刺激し沢山の卵の発育を促さなければなりません。もちろんそのための注射も非常にストレスの多い処置ですが、やはり採卵という一種の手術操作が必要となる処置がつらい操作になるのではないでしょうか。従ってART の成功率を調べる時には採卵当たりの成績が重要とされています。

Q ARTにおいて採卵を受けた方がどの程度の妊娠できるのでしょうか。
A 最新のデータでは最も成績がいいのはIVF で23.0%と報告されています。ICSI の成績も上昇してきており20.5%となっており、ほぼ同じと考えて良いと思います。ICSI には、IVFでは到底妊娠を望めない難しい症例も含まれていますから、この成績は大変意味のある成績だと思います。

Q 体外受精や顕微授精の妊娠率は毎年向上してきているのでしょうか。
A この数年間の成績を見てみますといずれも横ばいで、20%を少し上回る程度のレベルを維持しています。

Q ARTの成績は採卵当たりの妊娠率を基準にみればよろしいのでしょうか。
A ART の目的は生児を得ることが目的なのです。従って妊娠しても流産や子宮外妊娠などになっては目的を叶えることができません。そこで採卵当たりの生産分娩率というのが重要な指標になります。ちなみに、採卵当たりの生産分娩率は、IVFでは15.3%、ICSIでは13.6%です。20%前後の妊娠率があっても実際に出産するのは15%前後ということを考えてみますと、ART の成績は未だ満足できるものではないということが判っていただけると思います。

Q ARTでは胚移植のできない人もいるのでしょうか。
A 採卵しても胚移植ができない場合もあります。それは受精が成立しなく移植可能な胚が得られないということを意味します。従って、移植当たりの成績にしますと少し数値は上回ります。例えば、移植当たりの生産分娩率をみますと、IVFでは19.8%、顕微授精では18.0%と採卵当たりの生産分娩率を上回ります。この数値も数年間ほとんど変わらず20%を多少下回る程度で推移しています。

Q 凍結胚移植による妊娠で誕生する児が多いということですが、どの程度の妊娠率が得られているのでしょうか。
A 凍結胚移植の妊娠率は移植当たり31.8%というのが最近の成績です。これは他の治療法に比べ極めてよい成績です。凍結胚移植の成績はこの数年間で徐々に上向いてきています。10 年前には僅かに14.3%という結果が報告されていますから、2 倍以上成績が向上したことになります。

Q 先ほど2 個か3 個の胚を一般に移植するということを聞きましたが、それで多胎妊娠は発生しないのでしょうか。
A IVF では妊娠例の18.0%が多胎妊娠となっています。ICSI では16.2%です。この数値はこの数年間あまり変わっていません。今後技術が向上すれば1 個の胚移植も行われる頻度も高くなってくるものと期待されます。スエーデンなど一部の欧米諸国では1 個胚移植を義務づけている国もあります。母体と児を守るという考え方が浸透し、社会支援も充実している国であることが伺えます。

Q 多胎妊娠でも双胎までは自然妊娠で認められることがありますね。しかし三つ子以上の多胎妊娠は母児共に良いことではないと思うのですが、多胎妊娠の内容はどのようになっているのでしょうか。
A 多胎妊娠の総数は、最近の統計では3,526 例となっています。大部分は双胎で、その数は3,231 例で、即ち、92%が双胎ということになります。三つ子の妊娠数は最近のデータでは287 例となっています。従って、多胎妊娠の中で三つ子となるのは8.1%弱ということになります。

Q 体外受精の現状はよく分かりました。しかし体外受精の成績は受ける側の条件によっても変わるのではないでしょうか。
A そのとおりです。受ける方の年齢が最も重要な因子となります。しかし、わが国では体外受精の統計の中に年齢別に成績は含まれておりませんから、その内容は明らかになっておりません。

Q 年齢別の統計がないということですが、私はもう38 歳になりますから30 歳前後の人は成績が違うと思います。どの程度の成功が望めるのでしょうか。
A アメリカではART の成績を詳しく分析しインターネットで公開しています。その成績をみますと30 歳中頃までは多少の変動はありますが、ほぼ同様な妊娠率および生産分娩率が得られています。しかし、35 歳ころから明らかな低下が認められるようになります。30 歳前後では40%前後の妊娠率なのですが、38 歳になりますと30%前後、45 歳になりますと3%程度の妊娠しか期待できません。このような数値を参考にART を選択するか否か考えてみる必要があると思います。

Q 不妊の原因によっても成功率は変わるのでしょうか。
A 幸いなことに不妊原因によって生産分娩率はあまり大きな変動はありません。しかし、卵巣レベルの加齢が進み採卵数が少ないような女性では妊娠率は顕著に低下し、他の不妊原因の1/2 程度になります。また、子宮筋腫など子宮に問題がある場合には生産分娩率は3 割ほど低下すると考えられています。

Q 高齢の方のART は大変だということはよく判りました。高齢者でも妊娠した例が報告されていますが、実際に40 歳をこえるような例における妊娠率はどのような成績なのでしょうか。
A アメリカの例ですと40 歳ではART を始めた人のうち23.0%が妊娠に至っています。1 年毎に妊娠率は低下し42 歳では15.4%、43 歳では11.5%、43 歳以上では5.3%と報告されています。しかし、これがすべて出産に至るわけではありません。仮に40 歳の方がART を受けたとしても出産に至るのは12.6%、42 歳では7.5%、43 歳では6.0%、43 歳以上では1.8%と報告されています。生産分娩率が7%以下では、ART を実施すべきではないという考え方もあります。実際に、43 歳以上では治療を断念せざるを得ないと感ずる人も多いと思います。その時点でのカウンセリングは極めて重要です。

実際の講演では、さらに詳しい説明をQ&A の形で図表を使ってお話しさせて戴きます。

演者:荒木重雄
現職:国際医療技術研究所IMT College 理事長、日本生殖医療研究協会会長
昭和41 年札幌医科大学卒後、同大学、群馬大学、米国コロンビア大学医学部にて生殖内分泌を学ぶ。
昭和49 年からコロンビア大学医学部常任講師に就任、帰国後自治医大産婦人科学講師、助教授、生殖内分泌不妊センター長、自治医科大学看護短大教授、平成12 年4 月国際医療技術研究所理事長に就任し、海外との医療協力に力を注いでいる。また、American Medical Foundation Grobal の支援を受け、IMT College を発足させ医師の生涯教育にも取り組んでいる。平成16 年からはIMT College で看護領域の学術支援のプログラムを実施している。生殖内分泌、生殖医療を専門として、高度生殖医療、思春期医療、中高年女性のヘルスケア等広く活躍し、雑誌、新聞、テレビ等を通じ啓蒙に努める。
著書「体外受精ガイダンス- 新版」と「不妊治療ガイダンス- 改訂3 版」は不妊治療の発展の経緯から最新の情報まで網羅した著書として、専門職のみならず不妊カップルからも高い評価を得ている。




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