生殖補助医療をめぐる行政と法

神戸大学大学院法学研究科

丸山英二

 私は,199810月に設置され,200012月に「精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療のあり方についての報告書」をまとめた旧厚生省の厚生科学審議会先端医療技術評価部会生殖補助医療技術に関する専門委員会の委員を務めた。本報告は,専門委報告書と,それを受けて20016月に設置された厚生労働省厚生科学審議会生殖補助医療部会が今年4月にまとめた「精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療制度の整備に関する報告書」,および法務省法制審議会生殖補助医療関連親子法制部会の動きに照らして,法律の観点から生殖医療に関する個人的見解を述べるものである。

 図式的・概念的に述べると,生殖補助医療が介入しない場合の人間の生殖は,(a)当事者の生殖器による性行為によって,(b)当事者の精子と,(c)当事者の卵子とが,(d)当事者女性の体内において受精し,(e)当事者女性体内における着床・妊娠及び当事者女性による出産を経て,なされるものである。生殖補助医療は,その助けなしには生殖ができない場合に,(a)(e)の一部(ないし,組合わせによっては全部)を,医療,他者由来の配偶子・胚,あるいは他者,に代替せしめることによって,子を得ようとするものといえる。具体的にいうと,AIH(a)が,AID(a)(b)が,体外受精は(a)(d)(配偶子や胚の提供による場合は,さらに,(b)(c))が,借り腹は(a)(d)(e)が,代理母は(a)(c)(d)(e)が,それぞれ,医療,他者由来の配偶子・胚,あるいは他者,で代替されるものである。

 

殖補助医療を用いない生殖

AIH

AID

体外受精

借り腹

代理母

 (a) 当事者の生殖器による性行為

×

×

×

×

×

 (b) 当事者の精子

×

( ×)

 (c) 当事者の卵子

( ×)

×

 (d) 当事者女性の体内における受精

×

×

×

 (e) 当事者女性の体内における着床

・妊娠,及び当事者女性による出産

×

×

 

 専門委等で多くの時間が費やされたのは,第三者の配偶子や胚を用いる生殖医療をどこまで認めるか,認めるとして,それを受けることができる者をどのように限定するか,配偶子や胚の提供者を匿名第三者に限るか,そのような生殖医療によって生まれた子に遺伝学上の親を知る権利(出自を知る権利)を認めるのか,代理母・借り腹を認めるか,という問題であった。とりわけ,配偶子・胚の提供や出自を知る権利をめぐっては,白熱した議論がなされた。

 本報告においては,これらの問題をとりあげ,私の考えを話したい。なお,報告で使ったスライドは,下記のアドレスの私のホームページに載せる予定である。

 http://www2.kobe-u.ac.jp/~emaruyam/medical/Lecture/lecture.html

講師紹介

丸山英二(まるやま・えいじ)

1951年7月4日生まれ。1974年神戸大学法学部卒業。同年神戸大学助手,1977年助教授,1987年神戸大学教授。専門は英米法・医事法。著書として『入門アメリカ法』(弘文堂,1990),論文として「生殖医療をめぐって――生殖補助医療技術を中心に」(法律時報71巻3号,1999),「生殖補助医療技術と出生前診断におけるインフォームド・コンセント」(産婦人科の世界52巻春期増刊号『Bioethics――医学の進歩と医の倫理』,2000),「近親者からの配偶子の提供(特集・生殖補助医療をどう考えるか)」(産科と婦人科69巻6号,2002),「生殖補助医療のあり方――法学的・私的管見」(医学のあゆみ204巻13号,2003)。